私のロングライフ モノを慈しむヒント

私のロングライフ モノを慈しむヒント

ラジオと卓上扇風機 和田智 カーデザイナー

ラジオと卓上扇風機 和田智 カーデザイナー

ロングライフの過去と未来の中で次代のスタンダードを考えていた

21世紀のカーデザインをリードするドイツ自動車メーカー。和田智さんは、その代表格「アウディ」で、1998年から10年以上、エクステリアデザインに携わってきた。

「私の父は生粋のエンジニアで、子ども時代は彼が信奉するドイツ製品*に囲まれて育ちました。ドイツ製品への憧れが芽生え、勝手に父の部屋に入り、愛用品を触っては叱られ、その重さや触感が強烈なイメージとして記憶に根ざしていきました。やがて美大に進んだ私は、研究室のコレクションで、当時、体験したドイツの製品に再会し、改めてドイツへの導きを感じたことを思い出します」。

和田さんが再び出会ったドイツ。それは20世紀半ばにつくられたブラウン社の製品だった。ラジオと卓上扇風機は、いずれも1961年にデザインされたもの。これは和田さんの誕生年と同じだ。

「アウディに勤め、ミュンヘンで暮らすようになり、休日には市内にある美術館『ピナコテーク・デア・モデルネ』をたびたび訪れました。私にはここほど魅力的な現代美術館はありません。このラジオ『SK25』も展示されていて、私の記憶は一足飛びに、少年時代の父の部屋へと遡りました。人生の中で何度も巡り合うこのデザインに縁を感じ、オークションで探し求めようやく所有の夢がかないます。バランスが絶妙で。シンプルで美しく、立体とグラフィックが高次元で融合している。この製品のメッセージ性は、時代が変化しても揺るぐことなく、私を戒めるように、スタジオの棚から私に『デザイン』の姿勢を問い続けるのです」。「ピナコテーク・デア・モデルネ」は、近代デザインの礎を築いたドイツの教育機関バウハウスと同時代に設立した、世界を代表するデザインミュージアムでもある。ブラウン社もまた、バウハウスから強い影響を受けた企業だった。

「単純に長保ちすればロングライフなのではなく、それが人生にどんな影響を与えてきたのかが大切だと思います。人間とモノとの関係が希薄になってきた現代、かつて両者をつないでいた絆がロングライフを生み出す。この二つのドイツ製品に触れると、あこがれとともに、先人が導いてくれたデザインの、その原点に立ち返ることができる」。

日本ではデザインは企業の成長に殉じ、新しさと未来だけに価値が見出されることが多かった。でも今は、デザイナーは人々と社会の成長を考える時代だと和田さんは言う。

「アウディで先行開発の社内コンペに参加した私は、誰よりも先行する『未来』を描こうとしていた。その絵を見た当時の社長から『サトシのデザインは新しいが、私には選べない。軽すぎる』と一刀両断され、落胆して悩んでいた時、上司は、自社ミュージアムで歴代モデルをスケッチして、先人たちの声を聞けとアドバイスしてくれた。当時、彼らはどんな想いで未来を描いていたのか、その想いを受け継いで、未来の自分から振り返って『これから』を考えることが、彼らが考える先行開発だったのです。私は未熟でした。そのクルマの未来とともに、人や社会はどう成長できるのか。創造性とは単に『新しい』モノをつくることではなかった」。

ロングライフとは過去の未来であり、私たちが次代のスタンダードを考える時の道標になる。ブラウン社のラジオと扇風機は、今日も和田さんにそれを語りかける。

* ドイツでは第一次世界大戦を経て1918年に共和主義革命の下、ヴァイマール共和国が誕生。1919年にはヴァイマール国立バウハウス綱領と宣言が発表され、「建築と芸術の統合」を目指す、新しいデザイン教育機関バウハウスが誕生する。その後、大戦後のインフレを克服したドイツで、アメリカ資本の導入による経済再興の機運が高まると、バウハウスでは、「デザイン」を芸術と近代機械産業の結合と捉える姿勢が打ち出され、今日の工業デザインの原型が形づくられる。バウハウスは第二次世界大戦でナチスドイツによって解体されるが、戦後、1953年にバウハウスの理念を受け継ぐウルム造形大学が開校。同大学との産学協同で、ブラウン社のデザイン部門は大躍進を遂げた。

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ラジオ「SK25」はアルツール・ブラウンとフリッツ・アイヒラーのデザイン、卓上扇風機「HL1/11」はラインホルト・ヴァイス。ブラウン社は1921年、エンジニアのマックス・ブラウンによってフランクフルトのラジオ部品製造工場として誕生。戦後、バウハウスのデザイン運動を継承するウルム造形大学との協働でデザイン部門を設立し、そこでデザインされたプロダクツは世界中のオーディオ製品、キッチン家電、美容家電などのデザインに多大な影響を与えた。

PROFILE 和田智(わだ さとし)

1961年生まれ。武蔵野美術大学卒業後、日産自動車に入社、初代セフィーロ、初代プレセア、ハイパーミニなどのエクステリアデザインを担当。英国RCA留学を経て、1998年ドイツ・アウディAG/アウディ・デザインへ移籍。同社ではA6、Q7などを手がけ、「世界でもっとも美しいクーペ」と評されるA5のエクステリアデザインは2010年ドイツ連邦デザイン大賞を受賞。アウディのシンボルとも言えるシングルフレームグリルを生み出した。2009年、SWdesignを設立して独立。カーデザインにとどまらず、暮らし、社会に根差すデザインへ目を向けた活動をスタートする。2012年、ISSEY MIYAKE WATCH "W" 発表。著書に「未来のつくりかた Audiで学んだこと」(小学館刊)。

http://www.swdesign-office.com/

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